障がい者福祉「じゅれー」

放課後デイサービス じゅれーの森

私がいま独り暮らしをしている小さなボロいマンションは、住所でいえば東日暮里だが、最寄駅は東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅で、徒歩約8分ほど。JR「日暮里」駅までは歩いて30分近くかかる。日暮里という地名の範囲は想像以上に広い、らしい。JRでいえば、「日暮里」駅よりも「鶯谷」駅の方が近く、歩いて15、6分ぐらい、かな。「鶯谷」駅前には以前も触れたサウナ付きスーパー銭湯「萩の湯」もあるので、「三ノ輪」駅よりは遠いが、「鶯谷」駅も結構よく利用している。

ここに引っ越してきて、もうかれこれ5、6年になる。引っ越しにあたって、とくになじみがあったわけでもなく、知り合いもいない、まったく縁もゆかりもなかったこの地をあえて選んだそのわけは、日比谷線の沿線で探したらたまたまこの辺りに家賃が比較的リーズナブルな物件がわりと多かったので、その中から選んだ、というだけの話に過ぎない。部屋の内見も2、3件回っただけで、さほど深くは考えずにあっさり決めた。この時は、急いでいた、というより、どこでもいいや、と、結構投げやりな心境だった、ように思う。今振り返ってみれば。

なぜ日比谷線沿線で探したのか? どうしてこのとき投げやりな心境だったのか? については、またいずれの機会に述べたい。あ、三ノ輪といえば、吉原が近い、というのはそっち方面に詳しい人ならピン!と来るが、私がここに越してきたのはそれが理由ではないよ。多分違うと思う。違うんじゃないかな。ま、ちょっとはあったかも……って、関白宣言(さだまさし、わかるかな?)の一節を真似している場合ではない。ここはきっぱり、吉原が近いから、という理由ではないことは申し上げておく。当ブログは女性の読者も多いからね(さりげなく見栄張りました)。

話を戻す。この日もいつものように自宅を出て、最寄りの「三ノ輪」駅から電車に乗った。乗った電車は、いつもなら中目黒行きだが、この日は珍しく反対方向の南栗橋行、だったかな? 東武動物公園行、だったかな? 覚えてないが、とにかくいつもとは反対方向の電車に乗った。目的地は「春日部」である。当ブログも掲載している「一般財団法人 アラドラ」を主催している方と、このホームページを制作している方とともに、春日部市やその隣の宮代町で障がい福祉「じゅれー」を展開している「一般社団法人 市一舎」の代表者と会い、彼が運営している施設のいくつかを見学させてもらおう、というわけである。

このとき、私はてっきり、三ノ輪から春日部まで直通で行ける、と思い込んでいて、ろくに調べもせず、電車を待つ間も電車に乗ってからもずっとスマホをいじっていた。つまり上の空であった。すると、そのまま行けると思って乗り込んだ電車が北千住で止まった。しかも、北千住が終着駅とのことで、降ろされた。そうか、北千住止まりの電車もあるんだ、と、初めて知った。なにしろこっち方面はめったに来ないからね。

仕方なく降りたホームで次の電車を待つ。なかなか来ない。それでも、このホームから乗れば直通で行けると信じて疑わない私は、依然としてスマホをいじりながら、ようやく来た次の電車に乗って、そこで初めて、さて、春日部までは……と、到着駅を表示する液晶画面?モニター?何というのか知らないけど、ドアの上に動画が流れる画面ありますよね。あれを見て、春日部まであと何駅か確認しようとすると、あれ、春日部がないぞ?

慌ててスマホの乗換案内で調べると、ありゃりゃ、北千住で東武スカイツイリーラインに乗り換えないといけなかった、らしい。しょうがないので、次に止まった駅(何ていう駅だったか覚えていないけど)で降りて、反対方向の電車(そういうときに限ってなかなか来なくてイライラするよね)に乗って北千住まで戻り、東武スカイツリーラインに乗り換えた。この時点で遅刻は確定。どころか、再度乗換案内で春日部到着予定時間を調べると、待ち合わせ時間からほぼ30分近くも大幅に遅れることが判明した。

後でわかったことだが、じつは日比谷選から春日部まで直通で行ける電車は、あるにはある、らしい。しかし、それで行くと途中の駅の数があまりに多く、時間がかかる。それよりは東武スカイツリーラインに乗り換えた方が、早く行ける、ということのようだ。ドア上画面の到着駅案内に春日部の表示がなかった、というのも単なる早とちりで、そのまま我慢して乗っていればちゃんと表示されたらしい。いやはや、そんなの事前に調べとけよ、って話ですね、申し訳ない。しかし、その東武スカイツリーラインでも、北千住-春日部間は10駅もあるから、春日部って、思った以上に遠いよねえ。

そんなこんなで、大幅遅刻をLINEで報告すると、「春日部」の次の「東武動物公園」で降りろ、と指示されたので、言われた通り「東武動物公園」駅で降りて待っていると、車で迎えに来てくれた。聞けば私が遅刻している間、すでに1施設目の見学を終えて、移動してきた、とのこと。その私が遅刻したせいで見学しそこねた施設を、「障がい者福祉じゅれー 多機能型事業所 空-Coo-」という。

「障がい者施設 じゅれー」は、いうなればブランド名(でいいよね?)で、一般社団法人・市一舎が展開している施設のほとんどがこの名を冠するので、以下は省く。ちなみに「じゅれー」はラダック語で「こんにちは」「ありがとう」「はじめまして」などさまざまな意味を表す挨拶。春日部の自然と共存した環境でコミュニティのつながりを大切にしたい、という想いが込められている。ラダックは、インド北部にある旧ジャンムー・カシミール州東部の地方の呼称。広義には、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に囲まれた一帯を指す――とはウキペディアより。かつてはラダック王国という独立した仏教国だったそうだが、そこの言葉を施設名に持ってきたのは、さすが、旅歴70カ国超(と名刺に書いてあった)を誇る代表者のセンスの賜物だろう。

一般社団法人・市一舎では、利用者の生活、仕事、余暇などを分断して支援するのではなく、一貫した支援を可能にするため、グループホームをはじめ、支援の基盤となる相談事業所、日中活動先として生活介護や就労継続支援B型、放課後デイサービス、土日祝日も支援可能な行動援護事業所を運営している。従って、現在男性棟3棟、女性棟3棟ある「じゅれー」のグループホームで生活しながら、日中活動先として「じゅれー」グループの生活介護や就労継続支援B型、土日祝日の余暇支援として行動援護事業所の利用が可。同グループだから一貫した支援体制を実現できる、というわけだ。あ、B型とか行動援護とか、難しい言葉の説明はとりあえず置いといてね。追々していくから。いや、しないかもしれない。なにしろ、私自身がまだよくわかってないから、ね。わからないことは自分で調べてね。

聞くところによると、このような一貫した支援体制をとれるところは意外に少なく、それが「じゅれー」の特色の一つでもあるという。そして、遅刻したせいで今回私は見学できなかった「多機能型事業所 空-Coo-」は、就労継続支援B+生活介護で、仕事を通じて誰かの役に立つ喜びを得られることを目指し、軽作業、パン販売、洗車、農業などいくつかの仕事を実際に行っている。後で聞けば、この日もパン販売をやっていたそうだが、結果から言うと、今回見学した中では、ここは是非とも見るべきだった。と思った。まあ、遅刻した私が悪いんだけど。

というのは、私は以前、ライター仕事で老人ホームを取材して回っていたことがあり、その中の1つに、利用者(つまり老人)が“働いて報酬を得る”ことをコンセプトとしている施設があった。ここは正確にいえば老人ホームではなくデイサービスだったが、通ってくる利用者に仕事を割り振り、私が取材した日は近くのカーディラーへ行って洗車をしていた。私もそれに同行して少し手伝ったりもしたのだが、これはいいなあ、と思いましたね。もちろん報酬は微々たるものらしいが、金額ではないよね。働くことに意義がある。社会とのつながり、やりがい、自分の居場所等々、働くことで得られるものの重要性、大切さ、これは老人も障がい者も同じはず。というか、障がい者の方がより働くことの意義は大きい、だろう。だから、障がい者が働いている様子を実際に見てみたかった。素人のくせにわかったようなことを言うが(言い過ぎかもしれないが)、“就労継続支援”こそが障がい者福祉の本質である、と思うから。

話は変わるが、『千と千尋の神隠し』で、主人公の千尋が「働かせてください!」と言うシーンがある。異世界にまで「働かざるもの食うべからず」の思想を持ち込むのは、恐らく日本人ならでは、だろう。もっと言えば、千尋が働けることになって、「お前、うまくやったなあ」と喜んでくれたリンが、休憩時に「こんなとこ、出て行ってやるんだ」と愚痴をこぼす。このリアリティの見事さはどうだ。宮崎駿が天才であることは言うまでもないが、私は、壮大な世界観を構築する一方で、こうした細部のリアリティにも手を抜かないところに、彼の天才ぶりを感じる。

さて、結果論ではあるが、一番見たかった「多機能型事業所 空-Coo-」を見逃した(何度も言うけど悪いのは遅刻した私で、文句を言っているのではないよ)ことで、今回見学した障がい者福祉「じゅれー」について、当ブログに書くのは、やめとこう、と、考えたりもしたのだが、さりとて他に書きたいネタもないので、遅ればせながら(見学してから3週間ほど経ってしまったが)、一応、報告がてらここに記しておく。

「東武動物公園」駅で皆と合流して、まず向かったのは、「生活介護事業所 はる」である。18歳以上の知的障害者、身体障害で障がい支援区分3以上の方(車椅子の方は要相談)を対象とし、個人の特性や好みに合わせた日課・プログラムをカスタマイズ。集団が苦手な人でも楽しく過ごせる環境の下、穏やかに過ごすもよし、積極的な訓練活動も選べる。行動援護事業所と連携しているので、併用すれば19時まで利用でき、仕事をして報酬を得ることも可能、だという。

ここの建物は、もとはコンビニだったそうで、言われてみれば外観はほぼコンビニのまま。しかし中はもちろん大幅改装してあり、雰囲気は保育園か幼稚園のようである。スペースにはずいぶん余裕があるようにも感じるが、定員は20名(だったかな?)というから、むしろ狭いぐらいかもしれない。実際は12~3名も入ればいっぱい一杯、らしいけど、私たちが訪れた時間はもう利用者はあらかた帰ってしまったそうで、女の子が1人残っていただけだったので、活動の様子はわからない。ちなみにその1人だけ残っていた女の子は、言われなければ障がい者とは気づかないだろう、と思うほど、見かけは普通である。老人介護をしている私からみれば、こういう若い子と接するのも楽しいかもなあ、という気もしないでもない。あくまで個人的感想だが。

この私の個人的感想は、3件目に伺った「放課後等デイサービス じゅれー」を見てますます強くなったので、2件目のグループホームは飛ばして、先にこの「放課後当デイサービス」を紹介したい。

「放課後等デイサービス じゅれー」は、放課後という言葉からもわかる通り、小学生から高校生までの発達・知的・身体に障害を抱える子供が対象。そういう子たちが楽しくて毎日通いたくなる施設を目指し、常勤の専属療法士による作業療法・理学療法を毎日取り入れ、一人一人にあった「療育」を実践。また音楽療法士のプログラムで行う歌や楽器、リズム遊び、ダンスで楽しみながら様々な感覚を育てたり、自然豊かな環境で「農」と「生命」に触れ合い命の大切さを学んだり、外出訓練やお買い物訓練、個別療育など卒業後を考えた支援も行っている。

ここの建物は、入るのがためらわれるほど立派な門がある敷地の中にあり、ちょっとわかりにくい。元々はそこの地主が住んでいた建物だそうで、サンルーフというのかな?日向ぼっこできるテラス付きの、普通に住むぶんにはなかなか立派な家をデイサービスに使っている。それが贅沢というか、恵まれているというか、もったいないというか、何とも言えない感じ。まあ、そもそも障がい者向けのデイサービスがあることさえ、それまでは知らなかったのだから、建物を見ただけでは何とも言えないのはしょうがないか。

この「放課後等デイサービス じゅれー」へ我々が伺ったときも、子供たちは外出中で、誰もいなかった。しかし、我々が建物の中を一通り見せてもらって、帰ろうとしたとき、一台の小さなバスが庭に入ってきた。外出していた子供たちのお戻りだ。窓からそのバスを見ると、乗っている子供たちが我々に向かって手を振っている。思わず私も手を振り返した。いやあ、人懐っこいなあ。知らないオジさんたちが勝手に上がり込んでいるのだから、警戒されてもおかしくはないのに、警戒どころか、まるで歓迎してくれているかのよう。その笑顔になんだか俗世間にまみれて薄汚れた私の心まで洗い清められた、とまでは言い過ぎか。それにしても、この人懐っこさ、明るさは、障害児だから? それとも、ここのデイサービスの教育方針? どっちにしても、いいよねえ。

そんなほっこり気分も束の間、バスからドヤドヤ降りてきた子供たちが建物に入ってくると、無人で静かだった部屋が一変、蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれた。いや、人数はそう多くはなかった。よくわからなかったけど、多分4、5人ぐらいだった、と思う。しかも、とくに何をしたわけでもない。ただ、引率の大人から、やれ、手を洗え、だの、荷物はそこに置け、だの言われて、やいのやいのしているだけだが、それでもこの賑やかさはどうだ。子供って、うるさ、いや、元気だねえ。

その騒ぎを半ば呆然として見ていると、突然、手をとられて、驚いた。子供たちの中でも一番年長(多分、中学生?)とおぼしきひょろっと背の高い子が、私の手を握り、「トイレお願いします!」と言って、引っ張っていくではないか。えっ?えっ?と、予想外のことにうろたえつつも、そうか、トイレか、つまりトイレ介助してほしい、ということか?と、咄嗟に理解できたのは、私も一応、老人だけど介護の経験があるから、だろう。とはいえ、老人ではない子供のトイレ介助なんてしたことないし、勝手のわからないトイレでやり方もわからない介助ができるわけがない。どうしたもんか、と思いつつもぐいぐい手を引かれてトイレに入ると、彼はそこで私の手を放し、慣れた様子でまずトイレットペーパーをくるくると丸め、トイレの底に沈め、その上に何食わぬ顔でオシッコをした。

なるほど、これは多分、オシッコの飛び散りを防ぐため、だろう。それを自分でやれるのだから、わざわざ私を引っ張ってくる必要もなさそうだが、それも多分、いつも大人が見守ること、というような取り決めがあるのだろう。そう理解した私が、じゃあ見ているだけでいいんだな、という顔をして見ていると、あれれ、オシッコし終えた彼が、なんと、ウォシュレット(は商品名だから、シャワートイレと言うべきか)で手を洗っているではないか。おいおい、それはまずいだろう。いや、もしかして、ここではそれが正しい手の洗い方なのか? わからなくなった私は、トイレから出て、ここの先生らしき大人に助けを求め、ホウホウのテイでその場を離れた。

いやあ、ビックリしたなあ。初対面の大人に「トイレお願いします!」って、障害児のあるあるなのかな? わからないけど、そう言われて、悪い気はしなかった。むしろ、ここで働きたい、とさえ、ちょっと思ったぐらいだ。なにしろ普段は老人の介護をしているから、今度は子供の世話をする仕事もいいなあ、と、まだ漠然としているが、そう考えている。もっとも、ここまで通うのは現状では無理だろう。さて、どうしようか? 行こか戻ろか思案橋(意味わかるかな?)。

あっと、2件目のグループホームを忘れていた。けど、これは普通の戸建住宅を借りて使っている、ということだけわかったので、現時点ではそれでよしとしよう。普通の一軒家なので、生活するぶんには困ることはなさそうだが、介助が必要となると、介助する側は大変だなあ、と思った。感想は今のところそれぐらい。あ、建物自体は、新築と言われても信じられるぐらい綺麗なものでしたよ。興味のある方は、満床でない限り、体験宿泊もできるので、ぜひ一度ご自身で体験してみてはいかがでしょうか。

ということで、障がい者福祉「じゅれー」見学について述べた今回のブログはここで終了しますが、蛇足を少し。今回の見学にはこのホームページの制作者も同行しており、彼が写真を撮っていたので、彼が面倒臭がらなければ、今回のブログの文章に合わせて、見学した施設の写真を掲載してくれるでしょう。頼みましたよ、なぐ、いや、Nさん(本名出してもいいですか?)。

また、「じゅれー」の代表者の名前や連絡先などは、一応今回も伏せましたが、べつに公開してもいいと思うので、知りたい方は当ホームページのお問い合わせからリクエストしてください。先方に確認のうえすぐ教えますし、要望あれば当ブログのいずれかの回でも掲載したいと思います。

では、今回またしても長くなってしまった文章を最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。