かれこれ20年近くも昔の話で恐縮だが、イタリアのローマへ行ったことがある。まあ普通に観光旅行で。ただ、そのときはローマだけでなく、シチリア島まで移動してクルマで島の西から東まで横断したりしたので、ローマでの滞在期間はわずか2日間。しかもそのうち1日はポンペイ遺跡まで足を伸ばしたので、ローマ市内の観光は実質1日しかなかった。なにしろ大昔なのでよく覚えていないが、たしかそうだった。
ポンペイはナポリの近郊にあり、ローマからはクルマでおおよそ2時間半ぐらいかかる。それでも、どうしてもこの古代遺跡が観たくて、わざわざレンタカーを借りて行ったのは、その頃私は海外でクルマを運転するのが好きだった(今はもう自信ないが)、というのともう1つ、途中でナポリやアマルフィ海岸へも寄りたかったから。しかし、ナポリには寄ったが、アマルフィ海岸へは道がわからず寄れなかった。当時はまだカーナビなんてなかったし、時間もなかったから。せっかくの機会なのに、もったいなかったな。
ローマでは、午前中にコロッセオ、午後はヴァチカン宮殿を観賞。コロッセオはともかく、ヴァチカンは、ほんとはもっと時間をかけて、じっくり観たかった。観るべきであった。が、どうも私は海外に限らず旅先では、あれも観たいこれも観たい、ここも行きたいあそこも行きたい、となり、無理矢理スケジュールを詰め込む傾向がある。
ヴァチカン宮殿へも朝から行って終日費やせばよかったものを、午前中はコロッセオに時間をとられ、午後になってから入ったので、閉館時間ギリギリまで粘ったが到底満足できるまでの鑑賞はできず、もの足りない思いでヴァチカン宮殿を後にした。もったいないねえ。
その日はそれで終わらず、その後に「トレビの泉」へと向かうという強行軍。着いた頃にはすっかり暗くなっていて、写真で見た「トレビの泉」とはずいぶん雰囲気が違った。もちろん観光客どころか人っ子ひとりいなかった。今思えば、あれほど有名な観光スポットのわりには、さほどライトアップはされていなかったようだ。現在もそうなのかな?
翌日はさらにハードだった。朝早くからレンタカーでポンペイへ向かう。が、着くまでに時間はかかるし、着いてからもポンペイ遺跡は思ったよりかなり広大なので、一通り見て回るだけでも1日がかり。帰りにナポリに寄って、港が見えるレストランで食事したのを覚えているが、そのとき眺めた港はすでに夜景だった、と記憶しているので、ローマへ帰り着いたのはもはや真夜中。もしかしたら深夜といってもいい時間だったかもしれない。
それでも、その時間から、レンタカーを駆ってローマ市内をぐるぐる巡り、「真実の口」や「スペイン広場」、あと名は覚えてないがガイドブックに載っていた有名らしき建物をいくつか見て廻ったからね。強行軍もいいところだ。というか、もはや観光ではないよね。ただ足を運んで、写真を撮る、それだけが目的の深夜のドライブ。だけど、しんと静まり返ったローマの街並みは、街灯がそういう色だったせいか、私の記憶の中ではまるで古い映画のワンシーンのように、それはそれはシックで美しく、幻想的なムードさえ漂っていた。これはこれで良い思い出である。
こうしてわずかな滞在時間を目一杯使い倒し、コロッセオ、ヴァチカン宮殿、トレビの泉、真実の口、スペイン広場などを巡り、ポンペイ遺跡やナポリまで足を伸ばし、加えて、これまた有名なフォロ・ロマーノという遺跡群も、たまたま宿泊したホテルの窓から一望できたので、これもカウントして、観るべきものはほぼ全部観た。という満足感を得て、ローマを後にした。そんなの観光じゃない、ただ巡っただけじゃないか、と言われればそれまでだが、いいんです。こういうのは、あくまで本人が満足できれば、それでOKなのだ。文句あるか。
ここで話は急転直下、現在、いや、昨年に戻る。過去ブログで書いたように、私は昨年の秋からなぜか突然、意味もなく芸術鑑賞に目覚め、上野公園内の東京国立博物館で開催されていた『やまと絵~受け継がれる王朝の美~』展を皮切りに、同じく東京国立博物館で『京都・南山城の仏像』展をたて続けに鑑賞。さらにその後新宿のSOMPO美術館で『ゴッホと静止画 伝統から革新へ』展も観た。それらがいずれも期待を超えて感動したことで完全に火がつき、さて、次は何を観に行こうか、と見回すと、おっと、モネもあるじゃないの。
クロード・モネ。ご存じ『睡蓮』で有名な印象派の画家ですね。そのモネの『連作の情景』と題した展示会が上野の森美術館で開催中だった。それにしてもこの秋は、たまたまかもしれないが、観たい展示会が目白押しだな。けど、噂によるとそのモネ展がたいそうな人気で、連日行列だとか。いや、日本人って、そんなにモネが好きなの?知らなかったなあ。
なので、ちょっと間を空け、行列が短くなった頃を見計らって行こう、と思った矢先、今度は上野駅の地下鉄構内で、『永遠の都 ローマ展』なるポスターを発見。それまでの展示会の情報はすべて、清掃の仕事の勤務中に見かけたポスターによって得たが、これは勤務中ではなく、通勤途中で見つけた、というのはどうでもいいか。
ここで話はやっと、冒頭の、昔行ったローマの記憶と結びつく。そうか、ローマか、懐かしいなあ。また行きたいなあ。と思ったものの、ただ懐かしい、だけならそのローマ展には行かず、モネ展を優先しただろう。ローマで観るべきものは無理矢理だけど一通り巡った、という思いがあるから。ところが、そのポスターをよくよく見ると、「カピトリーノの丘」とか、「カピトリーノ美術館」とか、「カピトリーノのヴィーナス」などと、やたら「カピトリーノ」という聞いたことない言葉が躍っている。
なんだ?カピトリーノって?気になってちょっと調べたところ、ローマの二千年を超える栄えある歴史と比類なき文化は、古代には最高神を祀る神殿がおかれ、現在はローマ市庁舎のある「カピトリーノの丘」を中心に築かれた。その丘に建つ「カピトリーノ美術館」は、世界的にもっとも古い美術館の1つに数えられる。という。ほぼ引用だけど、そういうことらしい。
ちょっと待てよ。そんなすごいものがあるなんて、知らなかったぞ。少なくとも「地球の歩き方」には載ってなかったじゃん。見落としただけかもしれないけど。もし私がローマへ行ったときに知っていたら、絶対行ったのに、と、忸怩たる思いがふつふつと沸いてきた。
だって、しつこいようだけど私、昔のことながらなまじローマで観るべきものは全部観て、自己満足にせよローマについては知ったつもり(知ったかぶり?)でいただけに、ローマの歴史と文化の中心であり、世界最古の美術館でもあるという「カピトリーノ」を知らなかった自分が恥ずかしい。いや、今からでも遅くはない。この機会に「カピトリーノ美術館」のコレクションを観に行かなきゃ。というわけで、開催期間も終わりに近づいていたこともあり、モネはひとまず置いといて、先にその「永遠の都 ローマ展」を観ることにした次第。モネはその後でいいや。
「カピトリーノ」美術館は、ルネサンス時代の教皇シクストゥス4世が、ローマ市民に4点の古代彫刻を寄贈したことにはじまる。古代遺物やヴァチカンに由来する彫刻や、ローマの名家からもたらされた絵画など、多岐にわたる充実したコレクションは、古代ローマ帝国の栄光を礎に、ヨーロッパにおける政治、宗教、文化の中心地として発展したローマの歩みそのものに重ねられる。
そんな「カピトリーノ美術館」の所蔵品を中心に、建国から古代の栄光、教皇たちの時代から近代まで約70点の彫刻、絵画、版画等を通じて、「永遠の都」と称されるローマに歴史と芸術を紹介するのが本展。以上、ほぼパンフレットからの引用ですまんが、そりゃ観たい、と思いません?
また、昨2023年は、日本の明治政府が派遣した「岩倉使節団」が「カピトリーノ美術館」を訪ねて150年。この節目の年に、ローマの姉妹都市である東京で、同館のコレクションをまとめて紹介するのは、初めての機会。とも書かれていて、これは観たい、というより、観らないかん、でしょうよ。ちょっと言葉遣いが変だけど。
で、実際に行ってどうだったか、といえば、そりゃあもう、素晴らしい、としか言いようがない。感動というよりは、それを通り越して、畏敬の念さえ抱きましたね。二千年のローマの歴史と文化に。二千年前のローマ市民に。決して大袈裟ではなく。皆さんも絶対、観に行ったほうがいいですよ。あ、もう終わっているか。残念でした。
その展示物一つひとつの説明はここではしないけど、とりあえず、まずはローマのシンボルといえる「カピトリーノの牝狼」でガツンとファーストインパクト。複製だけど。いや、これ、どっかで見たことあるぞ、と思いながら全然思い出せないんだが、多分、何か美術の本か資料で見たような。これが「カピトリーノ美術館」所蔵であることを知っただけでも、来たかいがあった、というもんだ。
続いて、頭部だけで約1・8メートル!大迫力の巨大彫刻「コンスタンティヌス帝の巨像」の一部の原寸大複製を見て、その全体像の大きさを想像し、ビビる。二千年もの大昔にこんなもの、よく造ったなあ。さらに、美術館の起源からミケランジェロの都市計画までの展開を表す絵画や版画に、生きてるうちに一度は現地を観たい、という思いを抱いたり、日本初公開のカラバッジョ「洗礼者聖ヨハネ」をはじめとした絵画館コレクションに魅せられたり。古代記念碑「トラヤヌス帝記念柱」の模型にもなんだかよくわからないけどテンション上がりまくり。何度も言うけど、来てよかった。
そして注目は、奇跡の初来日!古代ヴィーナス像の傑作「カピトリーノのヴィーナス」。古代ギリシアの偉大な彫刻家プラクシテレスの女神像(前4世紀)に基づく2世紀の作品で、ミロのヴィーナス(ルーブル美術館)、メディチのヴィーナス(ウフィッツィ美術館)に並ぶ古代ヴィーナスの傑作。と言われてもその価値はわからないでしょう。私もただパンフレットを引用しているだけでよくわかっていないけれど、とにかく、その実物を目の当たりにした、というのが大変貴重な機会である、というのはわかるので、ここで自慢しておく。どうだどうだ。って、ヤな性格だねえ、我ながら。
こうして、大満足のうちに鑑賞を終え、東京都美術館を後にした。その足で、おなじく上野公園内にある上野の森美術館へと向かう。さて、モネ展はどうかな、と思って。すると、おお、噂通りの長~い行列が。だけどよく見ると、その行列はギフト売り場に並んでいるもので、チケット売り場にはさほど並んでいない。よし、これなら入れるな、と思ったけど、その時点で閉館時間が迫っていたので、今から入るのはもったいない。やっぱりモネ展は後日にして、さあ、美術の後のお楽しみ、といきましょう。いや、ただ飲むだけですけどね。
上野の森美術館は、上野公園の中でも東京国立博物館や東京都美術館などとは反対側に位置し、そこからだと鶯谷駅よりも上野駅のほうが近いので、今回はいつもの鶯谷飲みではなく、上野~御徒町界隈で飲むことに。でも、ちょっとその前に、上野公園に隣接して新しくできた(といってももう5、6年ぐらい経つと思うが)「上野の森さくらテラス」という、公園からエレベータで行ける飲食店街でちょっと一杯。「エビスバー」で生ハムやチーズをつまみにエビスの生ビールをひっかける。永遠の都に触れて気分が高揚し、喉が渇いたからね。
続いて、ここもいわゆる「アメ横」の一角でいいのかな?「地魚屋台 浜ちゃん」という店へ。屋台と言いつつ普通の居酒屋だけど、その名の通り魚料理と、もう1つ、天ぷらがウリ。この辺は安い居酒屋の密集地帯だが、そのほとんどはやきとんや焼鳥など肉がメインで、魚はまだしも天ぷらは珍しい、と思ってチョイス。YouTubeで見て、いつか行きたい、と思っていたので。つまり私も初来店である。
ここで食べたのは、もちろん天ぷら。そのお味は、まあ、普通かな。私の出身地である博多には、安くて旨い天ぷら専門店がいくつかある。天ぷらは東京では高級料理だが、博多ではわりと庶民的な食べ物で、庶民的だけどレベルは高い、と私は思っている。その博多の天ぷらを食べ慣れている(最近はご無沙汰だが)私に言わせれば、ここの天ぷらは、不味くはないけど、特別旨い、とも思わなかった。が、ここは何がいいって、天つゆがポットにドン、大根おろしも壺でドカン、とテーブルに置いてあり、なんと使いたい放題、入れ放題。これなら不味い天ぷらだっていくらでも食べられる。素晴らしく太っ腹な店である。まあ、逆にこれがあることをYouTubeで知ったので、来たんだけどね。
続いて2軒目、いや、エビスバーを入れれば3軒目は、「全国銘酒 たる松」。近くに上野店もあるが、こちらの「アメ横ガード下飲食街」1階にあるのが本店、だと思うけど、まあどっちでもいいか。ちなみに「アメ横ガード下飲食街」で検索しても出てこないので、「アメ横ガード下飲食街」の1つ、ではないらしい。紛らわしいけど、まあいいか。
この店には私、以前1度だけ入ったことがあった。しかしそのときはどんな店か何も知らずにたまたま流れで入って、たまたま入ったにしちゃいい店だなあ、と思ったけど閉店時間ギリギリで1,2杯飲んだらすぐ追い出された。なのでまたいつか、ゆっくり飲みたいなあ、と思っていた店である。言うまでもないが、日本酒好きにはお勧め。で、今回の同伴者も日本酒好きなのでお連れした次第。
ただし、全国銘酒、というわりには、日本酒の品揃えは少ない。よく言えば厳選しているんだろうけど、もうちょっと種類増やさないと、看板に偽りあり、と言われかねないと思うが、大きなお世話かな。でも、まあ、さすがに置いてある日本酒はいずれも有名な銘柄で(忘れたけど)、つまみも呑兵衛オヤジ好み。何より店の雰囲気がいい。
一言でいえば、昭和レトロ。なんだけど、昭和は昭和でも、どちらかといえば昭和初期、それこそ戦後間もない頃の酒場はこんな感じだったんだろうな、と思ってちょっと調べたら、やはり創業70年を誇る老舗だそう。
なにしろ日本酒を頼んだら、桝の淵に塩が盛ってあるからね。つまり塩を舐めながら日本酒を飲め、というわけだが、そんなのいつの時代の話だ?私が酒を飲みはじめたころはすでに、塩を舐めながら飲むのはテキーラだったけどな。
そんな雰囲気といい、働いているオバちゃん、もとい、お姉さんの愛想の無さといい、後日森下でたまたま見つけて入った「魚三」というこれもまた有名な老舗(後で知ったけど)と似ているのが面白い。説明するのは難しいけどね。またいずれ、機会があれば、この話の続きをしたい。
続いて4軒目は、「サムライBAR」という店へ。前回新宿で「イーグル」という老舗オーセンティックバーへ行き、バーテンの兄ちゃんと、昔とった篠塚、違った、杵柄でカクテルの話をして、楽しかったので、上野でも良いバーがないか、と思ってネットで調べて行ったのだが、ここは雰囲気は良かったものの接客はイマイチ。というか、カウンターではなくテーブルに通されたので、バーテンと話ができなかった。
そこで1杯だけ飲んで出て、仕切り直しで入ったのが、「BAR LUKE」。ここではカウンターに座って、スタッフの若い兄ちゃん姉ちゃんたちと会話できて、オジサン(私のことです)はちょっと楽しかった。が、そのお姉ちゃん、私は最初てっきり男だと思ったのが、じつは女だと知ってビックリ。いや、じつは以前、当ブログで紹介した「唐揚げのジョンソン」の店長も男か女かわからなくて、聞くのも失礼かと思い未だに聞けないでいるのだが、今時の若者の間で増えているのかな?男か女かわからない中性的なヤツ。私は意外と好きだけどね、男っぽい魅力の女性は。
まあそれはいいとして、「BAR LUKE」にはいくつか系列店もあるみたいだから、次の上野飲みのときはそこへ行くのもいいな、という楽しみもできたところで、今回はこれにて。次回はいよいよ、というか、やっと、モネ展の話です。もう昨年のことになっちゃったけど。ではまた。