『THE FIRST SLAM DUNK』

ザファーストスラムダンクのポスター

前回でバスケットボール日本代表男子のパリ五輪出場決定!という話をしたが、図らずも今回もまた、バスケットボールの話題。といっても競技ではなく、映画の話。ご存じも方も多いだろうが、漫画『SLAM DUNK』を映画化した『THE FIRST SLAM DUNK』が、今年の正月に公開され、大ヒット。日本ばかりでなく、韓国や中国では記録的な興行収入を挙げた、と報じられた。

『SLAM DUNK』といえば、たしか過去ブログでも書いたと思うが、私も大ファンの1人である。漫画の連載当時、さすがに少年ジャンプは買わなかったが(もういい大人だったからね)、単行本が出たらすかさず買って、今でも本棚に揃えている。と、言いたいところだが、半分は娘が持っていってしまい、その後ずいぶん時が経つが、未だに返ってこない。という話はどうでもいいか。

それはそうと、漫画『SLAM DUNK』の連載はとうの昔に終了しており(今調べたら、1996年6月だった)、それから27年もの長~い時が流れたにも関わらず、今回の映画化でまた注目が集まっている。というより、よもや再ブームの到来か、と思わせるほどの人気沸騰ぶり。いやはや、どこまで神作品なんだ。

かくいう私も、そんなに『SLAM DUNK』が好きなら、当然、今年の正月に映画『THE FIRST SLAM DUNK』が封切られたら、真っ先に観に行ったんだろうな、と思いますよね。ところがどっこい(古い言い回しだな)、この正月は、映画を観たのは観たが、『THE FIRST SLAM DUNK』は観なかった。

では、何を観たか、というと、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。そう、ジェームス・キャメロン監督が興行収入世界一を記録した、あの『アバター』の続編である。なぜなら、ゆうても『THE FIRST SLAM DUNK』は所詮アニメだし、せっかく映画館で観るなら、ハリウッド的大作を観たいよねえ。アニメはDVDとかで十分、と、そのとき(つまり正月に何を観ようか、と考えたときね)は思った。

じつはそのとき、もう1つ候補があった。『Drコトー診療所』の映画版だ。これもこの正月に封切られ、十数年ぶりにドラマのキャストが勢揃い、と話題になっていた。『Drコトー診療所』は、昔のTVドラマ放送当時はあまりリアルタイムでは観ていないが、ひとり暮らしをはじめてほどなくの5~6年ぐらい前に、YouTubeで全シリーズをぶっ続けで観て、恥ずかしながら泣いた。

コトー診療所のロケ地

ちなみに、TVドラマのロケが行われた与那国島(ドラマの中では志木那島)には、今も撮影で使われた診療所が残されていて、観光名所になっている。私も別の取材で与那国島を訪れた際に立ち寄ったことがあるが、そのときはまだYouTubeを観る前だったので、さほど関心はなく、ふーん、こんなもんか、ぐらいにしか思わなかった。今考えると、もったいないねえ。

話を戻すが、今年の正月、娘と映画でも観ようか、となって、何を観るか、と考えたときの候補作が、要するに、『THE FIRST SLAM DUNK』、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』、『Drコトー診療所』の3作だった、というわけだが、娘は前作の『アバター』は観てないし、漫画『SLAM DUNK』も読んでない(私の所蔵本を半分持って行ったくせにまだ読んでないという。けしからんな)。なので、観るなら『Drコトー診療所』かなあ、と娘は言った。

私も『Drコトー診療所』は好きなので観たいのはやまやまだったが、しかしこれも『THE FIRST SLAM DUNK』と同様、所詮ドラマだし、せっかく映画館で観るんだから、と、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を主張した。すると娘はあっさり賛同(結局どれでもよかったようだ)。という次第で、結局、今年の正月に観たのは、『THE FIRST SLAM DUNK』でも『Drコトー診療所』でもなく、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』だった、というわけだ。

ちなみに、現在の全世界興行収入第1位は『アバター』で、その額じつに29億2370万ドル(約3976億円/1ドル136円換算)。2位は『アベンジャーズ:エンドゲーム』で27億9943万ドル(約3807億円)、そして『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が22億6874万ドル(約3085億円)で3位にランクイン。続いて第4位は『タイタニック』で22億5423万ドル(約3066億円)。上位4作品のうち3作品をキャメロン監督が占めている。すごいっすねえ。

と、感心している場合ではない。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が世界3位になったのはすごいことだが、注目すべきは、前作の『アバター』を超えられなかったこと。私がこの正月に『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を観たときの感想も同じで、面白かったけど、うーん、前作を超えるまではなかったかなあ、と思った。

その感想の詳細を書き始めるとキリがないので割愛するが、とにかく、3時間ほどに及ぶ長編の最後の方は、映画に没頭できなくて、早く終われ、と焦れていた。時間を忘れさせるのが良い映画だと私は思っているが、そういう意味では、残念であった。せっかく映画館で観たのにねえ。

それからしばらく経った頃である。結局観なかった『THE FIRST SLAM DUNK』の評判が聞こえてきたのは。なんでも日本より韓国や中国での人気が凄まじく、記録的な大ヒットとなっているらしい。いやあ、選択を間違えたなあ。そんなことなら『THE FIRST SLAM DUNK』を観とくべきだった。いまいちだった『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』ではなく。

しかし、その後はしばらく映画を観に行く機会がなく、『THE FIRST SLAM DUNK』は観ないまま季節は移ろい迎えた春、いや、もう夏だったかな、『THE FIRST SLAM DUNK』よりも観たい映画が突如現れた。宮崎駿の『君たちはどう生きるか』がそれだ。

突如、というのは、この作品は事前の宣伝やPR等を一切やらなかったから。宣伝がないから私も直前まで知らなかったが、直前になって、テレビ番組等で、一切宣伝をやらない異例の新作だと逆に注目された。まあ、宮崎駿さんだからできることだよね。

じつは私、娘に付き合って新海誠の『君の名は』とか、細田守の『バケモノの子』とか、アニメの話題作は意外と観ている。しかも、アニメはDVDで十分と言ったくせに、映画館で。しかし、どれも宮崎駿の足元にも及ばない、とまでは言わないけど、凌駕するまでではない、のは明らかだ。みんな知っていることなので今更言うのも恥ずかしいが、宮崎駿は天才である。

その天才の、久しぶりの、待望の新作とあれば、これは映画館で観なきゃいかんでしょ。もしかしたらこれが最後の作品かもしれないし。と、思って娘を誘ってまた映画に行った。ただ、期待一辺倒ではなく、若干の不安もあった。私と娘が映画館に行ったのは公開されてすでに1~2週間ほど経った頃だが、評判を聞くと(ネットの書き込みなどで)、どうやら賛否両論。ややもすると、批判の声の方が多いかもしれない。宮崎駿でも外すことはあるのかな。

「千と千尋の神隠し」より

考えてみれば、宮崎駿のピークは『千と千尋の神隠し』、もしくは『ハウルの動く城』あたりで、その後は下り坂だった、と私は思っている。それまでは、新作が出る度に観る人の想像を超えてきた宮崎駿だが、『崖の上のポニョ』で初めて、面白かったけど前作を超えるまではないな、と思ったし、『風立ちぬ』は、はっきり言って失敗作である。とは、私個人の感想だから怒らないでね。

私が思うに、『風立ちぬ』は、詰込みすぎ、別の言い方をすれば、欲張りすぎた。堀辰雄の『風立ちぬ』と、零戦の堀越二郎を一つの作品に詰め込むには無理があり、物語も話の展開もブレてしまった。なんで一緒にしちゃったかな? 別々の話にして2つ映画をつくればよかったのに。

で、実際に『君たちどう生きるか』を観てどうだったといえば、不安が的中した。うーん、これはどうも、なんと言っていいかわからない。わからない、ということは、少なくとも感動はできない。娘は観る前、「宮崎駿が好きな人には面白いけど、そうでもない人が観たらつまんない映画みたいよ」と言っていたが、宮崎駿が大好きな私が観ても、いまいち理解不能であった。

私が思うに、宮崎さんは、開き直ったんでしょうな。わからない人にはわからなくていい、と。それまでの作品では、丁寧に丁寧にストーリーを繋いで、子供にでもわかる物語を作り上げてきた宮崎駿だが、この作品では明らかに、その配慮を欠いた。無理な場面展開がいくつもあり、つながらないシーンやなんの伏線もなく登場するキャラクターなど、観る人を混乱させる要素も目立った。世界観は相変わらず素晴らしいが、それも、過去作品のどれかで観たことがある風景だ、と思われるのも辛いところである。

というわけで、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』に続き、『君たちはどう生きるか』も期待外れに終わった。せっかく映画館にわざわざ行って、高い金払って(貧乏人にとってはたかが映画代といえども高い)観たのに。いやあ、なんか悔しいなあ、と思い、他に何か面白そうなのやってないかな、と調べてみたら、おっ、『THE FIRST SLAM DUNK』がまだやってるじゃないの。

正月映画だからとっくに終わってると思っていたけど、人気があったから延長されたのかな? わからないけどとにかく、『君たちはどう生きるか』の借りを返すべく(意味不明だけど気持ちはわかりますよね)、すぐさま『THE FIRST SLAM DUNK』の座席を予約した。わざわざTOHOシネマズの会員にもなった。

それでどうだったかというと、いやあ、良かった。面白かった。観てよかった。今作は漫画でも描かれた山王工業戦を舞台に、漫画では脇役(でもファンは多いが)の宮城リョータの過去の回想を交えて構成。漫画を読んでない人はもちろん、漫画を何度も読んで、シーンもセリフもすべて覚えている人(私もそうですが)にも楽しめる内容で、結果を知っていても楽しめるという意味では、あの名作『タイタニック』にも双肩する。とまでは言い過ぎか。

これが公開終了のわずか2日前という奇遇。まさに滑り込みセーフだった。映画終了後は、声優の座談会や、漫画原作の著者で今作の監督でもある井上雄彦先生もスクリーンで登場。私は昔、草バスケットで対戦して実際に井上先生を見たことがあるが、その時は、歳のわりには童顔で小柄で目立たなくてオーラもなく、あの神作を描いたのがこの人か、と意外に思ったものだが、今回久しぶりに見た井上先生は、すっかり頭が禿げ、もとい、スキンヘッドにおなりになって、すっかり大作家の貫禄を備えていらっしゃった。うーん、あの時、挨拶でもして、私のことを覚えてもらうようにすればよかったなあ。

それにしても、『THE FIRST SLAM DUNK』というタイトルだけに、『THE FIRST SLAM DUNK』もあるのかな? あるとしたら、宮城リョータの次は誰かな? そんな期待も含めて、何度も言うが、観てよかった。まだ観てない方はぜひ。あ、もう映画は終了か。ちなみに娘に貸した私の所蔵本『SLAM DUNK』はまだ返ってこない。